技が初めて「できる」ようになった瞬間は、大変嬉しいものです。飛び上がって喜びたくなります。でも、今できたことが次にはできなくなるし、当たり前のようにできていたことが突然できなくなることもあります。運動習得は、一度「できる」ようになるとそれが半永久的に身につくわけではないのです。これはどのスポーツで動きを覚える場合も共通しています。練習では「できる」「できない」を繰り返しますが、そのからくりを探っていくと、そこに「コツ」と「カン」の不思議な世界が広がっていることに気づかされます。「できる」と「できなくなる」ということは、いつも運動感覚をめぐって背中合わせになっているのです。
私このゼミでは、学生が取り組んできたスポーツの経験から、「どうしてそうなるのか」という問いを立て、その不思議な世界をスポーツ運動学という学問から研究し学んでいます。
3年生では、学問分野を問わず先輩たちの卒業研究を輪読します。その人がどういう問題意識をもってテーマを決めたのか。あるいはどういう分析方法によって結論を導き出しているのかなど、文書構成や研究の手立てをディスカッションしながら学びます。その活動を通して自分の問題意識やテーマを熟成させていきます。4年生では、各自の問題意識に従って結論を考えプレゼンを繰り返します。またその過程のなかで、結論を証明するための道筋を練り、卒業研究を作成していきます。
このゼミには、いろいろなスポーツの経験者が集まってきます。始めはお互いを知らないので静かですが、次第に打ち解けて賑やかになっていきます。4年生後期には卒業研究発表会で研究内容をプレゼンしますが、その時にはかなりの分析力と知識を身につけています。
自分の「問い」について、ゼミ生とディスカッション
このゼミでは、自分がこれまで慣れ親しんできたスポーツの経験を自己分析することが中心になります。その際、心と体を分離せず「動きながら感じ、感じながら動く」身体として分析するというスポーツ運動学の立場から研究していきます。そこで大切なキーワードが「感覚意識」です。動きを練習する際によくイメージすることですが、当たり前すぎて深く考えることなくやり過ごすことも多いように思います。でも、そのことを学問の知恵を借りながら考えていくと、運動習得に欠かすことのできない「運動リズム」や「運動メロディー」という現象の意味がわかったりします。まさに自分の経験の探究です。そういった分析力を養うことは、また他者の動きを観察し指導するときの能力に反転する可能性をもっています。
学生の皆さんには、自分が好きでやってきたスポーツの経験を出発点として、そこからもう一歩深く切り込める分析力をぜひ身につけてもらいたいと思っています。それは将来、どんな職業に就くにせよ、他者を理解するということにもつながると思います。
渡辺博之 1962年 島根県松江市生まれ
東京女子体育大学・東京女子体育短期大学 教授
筑波大学大学院 体育研究科 コーチ学専攻コース修士課程修了 (体育学修士)
専門は、スポーツ運動学、器械運動、体操競技
担当科目は、器械運動Ⅰa・b、体操競技コーチング論及び実習、運動技術論、体育実技指研究
2023.06.19
2024.04.24
2024.06.15