この連載では、母校に戻り現在も教員として活躍し、クラブの指導も続ける卒業生にいくつかのテーマについて当時の想いを語っていただく連載です。
初回は、体育学部体育学科体育実技担当、体操競技部指導者の井上麻智子先生にお話を伺いました。
第一回は、これまでの競技者人生を振り返り「ベストな試合」について教えていただきました。
私の忘れられない一戦は、コンディションが一番整ってない中での試合なんです。
確かに、多くの方が言う「いい試合」のような「できた」と「成績」がリンクしている試合は高校時代の方がたくさんありました。高校時代いわゆる「ジュニア期」といわれる時代の私は「演技が完成している」と思っていました。感覚的に行っていたことでベストが出て、そして周りからも自信を持たせてもらって送り出されてきた。ある種、作られた自信をもって試合に臨んでいたんです。それに、体操競技を大学でも続けたことで気が付きました。
体操は個人競技なので、技と向き合ったときに、「あの練習の時よりダメだったな」といった感覚は自分の中にあります。あの一本が出せなかったという悔しさとして刻まれるのは、大学での試合の経験が多いです。
最後のインカレに臨む気持ちも全く別物で。もしかしたら体操の演技はこれが最後かもしれない。人前での最後の演技になるのなら私自身が納得するいい演技、いい一本を出したいから、その一本を突き詰めて考え、表現できるよう練習に時間を費やしてきた。私にとって体操競技の最高到達点、それが大学4年の最後のインカレでの試合だったんです。
今でも最後の試合の平均台の流れとか、その時に感じた自分の感情とか、あとは会場で感じた緊張感といった感覚は鮮明に思い出されます。
その中でも一番印象深いのは平均台。これは元々得意とする種目だったのですが、大学時代には失われていった感覚もあった種目でもありました。この一本を出したいのに出せないと4年間悩み試行錯誤を続けてきました。だからこそ、このインカレで集大成を出したいと挑んだので印象深いんだと思います。
だからと言って、自分の考えるいい演技、一本が出たかというとそうではないんですよ。やっぱり悔いはあるんですけれど、技の中で表現したいこと、見せたい私の演技ってなんだろうと自分の演技というものを考え抜いて、自分なりの成果にたどり着けた演技だったと思うんです。これは高校時代にシンプルに高得点がもらえた演技とは全く違うベストの演技なんですよ。
連載の第2回は、大きなけがも経験されている当事者だからこそ語れる「コンディションの整え方」から怪我を受け止めて自分の強さに変えていく姿をお伝えします。
お楽しみに!
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